憧れの猫との暮らし

昔から居酒屋やスナックが軒を連ねる、とある飲み屋街。いい感じではしご酒を楽しんでいると、通りの端に停められた高級車の上に1匹の猫がいた。どうやら近くのスナックのママの飼い猫らしく、車の上にちょこんと座ってママの帰りを待っているようだ。

その猫はすらりとした体形とビロードのようなふさふさしたグレーの毛を纏った美しい猫だった。目は深いグリーン色をしていて、とても神秘的。当時、田舎から出てきたばかりの私は、世の中にこんなきれいな猫がいるのか！とかなりの衝撃を受けた。

「……いつか、こんなきれいな猫を飼ってみたい」

猫好きの友人に聞くと、その猫の種類は「ロシアンブルー」だという。初めて聞いた猫の種類。神秘的なその名に私の憧れはますます募る。そして、その想いがついに実る日がやってきた。伝手を頼って知り合ったブリーダーさんから、生まれたばかりの子猫を譲り受けることになったのだ。その時の嬉しさといったら、なんて表現したらいいだろう……まさに嬉しさで小躍りする感じ？

我が家にやってきた小さな猫も小躍りよろしく、家じゅうをぴょんぴょんと飛び回る。夜中だって関係ない。どんなに仕事が忙しくて残業が続いても「遊べ！遊べ！」と鳴かれれば、眠たい目をこすりこすり猫じゃらしを振り回す。ほ～ら、そろそろ疲れてきただろう？　もう眠くなったんじゃない？　……全く変わらない子猫のパワー、恐るべし。

あれから10年。今やすっかり“寝子”がデフォルトとなった我が家の猫は、遊びに誘っても見向きもしない。あの子猫時代のはしゃぐ姿はどこにいったのか。布団の上を悠々自適にゴロンゴロンと過ごすその姿は、どちらがこの家の主かわかりゃしない。